マイケル・サンデル『実力も運のうち』をもとに、10/17(日)にFactory Art Museum Toyama において哲学カフェを開催しました。
現地参加者6名、オンラインでの参加者3名で3ヶ月ぶりの現地開催で大いに盛り上がりました。『実力も運のうち』の内容については、出版元の早川書房による抜粋が参考になりますし、折よく哲学カフェ開催の2日前に開催されたオンラインイベントのアーカイブが残っていますので、それも参考になります。
当日は『実力も運のうち』の原題の解説から初めて、能力主義(meritocracy)と貴族主義(aristocracy)の対立、そして主題である能力主義の由来、さらにそれを批判するマイケル・サンデル教授の徳倫理学という立脚点、そしてその立脚点に基づく「共通善」というキーワードの解説を最初の1時間で行いました。
この哲学カフェでは、今年の年初から哲学史の解説をしてきた中で、倫理学の3つの系譜をヘレニズムとヘブライズムに沿って紹介してきました。マイケル・サンデルが立脚する徳倫理学はアリストテレスが始祖となるヘレニズムの哲学の系譜に属して、それに対して近代に始まった功利主義と義務論はヘブライズムの哲学の系譜に属しています。根っこから説明したことで、マイケル・サンデル教授の問題意識をより明瞭に説明することができました。
休憩を挟んだ次の1時間では、労働が持つ「承認を求める戦い」という側面について説明して、その承認をすり合わせるための激しいバトルの場所が政治であるはずなのに、それを高学歴保有者(特にテクノクラート(技術官僚))が指導者の大半を占めるように鳴った上に、価値中立的と見られるスマートな議論に逃げて臭いものに蓋をしてきたことが、トランプ現象やブレグジットの引き金を引いたことにつながったというマイケル・サンデル教授の見立てを紹介しました。
最後の1時間ではフリーディスカッションにして、発言が少なめの方に多く発言してもらうようにしました。それぞれが立脚する立場を明確にした上でフェアに議論することができたのではないかと自負しています。能力主義ということで、富山県ならではの地元の学歴をめぐる戦いについてもざっくばらんに話ができたこともローカルな哲学カフェならではで良い時間になりました。