最新情報

【活動報告】第57回哲学カフェ×ミュージアム「『人新世の人間の条件』から考える」2023/4/16

4/16(日)にFactory Art Museum Toyama において「『人新世の人間の条件』から考える」をテーマとして哲学カフェを開催しました。気候正義を訴えるグレタさん、動物倫理学、コオロギ食など、世間をざわつかせる関連テーマが多いですが、現象面にとらわれずに地質年代のような遠大な時間軸の中でこれら諸問題を考える哲学的な書籍として『人新世の人間の条件』を選定して、ディスカッションを行いました。

現地参加者5名、オンラインでの参加者3名でした。リピート参加の方と新規参加の方がそれぞれいらっしゃいました。熱を帯びた議論となりました。

第1部の冒頭では、基礎知識を揃えるために入門用の動画を視聴しました。

その上で、第2部の途中までかけて、『人新世の人間の条件』の内容紹介と著者であるチャクラバルティの紹介を行いました。簡単な内容紹介としては、人間中心主義から生命中心主義への変容となるのでしょうが、人間の影響力が大きくなった人新世の時代における多くの基礎知識を縦横無尽に駆使してのストーリー展開となりましたので、基礎知識の説明に多くの時間がかかりました。

それに加えてEarth(地星)と earth(大地)の区分、planetとの使い分けなど、チャクラバルティの考え方の紹介に手間取ってしまったところもあり、基礎知識の消化自体も難しい中、議論が紛糾するところがありました。チャクラバルティの考えの優れている点は、地質年代のような時間軸(深層史[ディープヒストリー])を遡ることで、深層意識にまでたどり着けば、人間と動植物に共通する生命という基盤において時代意識に目覚めることができるという点ですが、そのポイントは何度か繰り返したつもりです。

第3部ではフリーディスカッションを行いました。議論は紛糾が続きましたが、何とか「エゴをいかにして乗り越えることが可能か?」というコンセンサスは得られたのではないかと思います。私は暫定的に「スーパーエゴ」と名付けましたが、要するにチャクラバルティが言うところの深層史において自覚する時代意識のことです。

チャクラバルティはハイデガーが言う「気分」を敷衍して時代意識にまで具体化しました。ハイデガーが言う「気分」は何とも怪しげなムードを醸し出しているのですが、換骨奪胎して人新世の時代において具体的内実に満ちた有益な概念にまで昇華しており、その点がこの思想書の優れた点です。

人間と動物の共存(AI画像生成で作成)

今回は興味深いご意見が参加者からありました。動物に高い知能があることはかなり知られ始めていますが、それどころか、植物にも知能があることが知られ始めているという報告がありました。さらに、その言語をAIで翻訳できるかもしれないというご意見まで上がりました。人間と動物、そして植物との共生を考える上で重要な点です。

以前、人工知能については哲学カフェで論じたことがありますが、ChatGPTで話題沸騰の現在再度考え直してみたくなりました。そこで、次回は「再論:人工知能とは何か?」というテーマで議論をしていきます。

【活動報告】第56回哲学カフェ×ミュージアム「選挙とは何か?」2023/3/12

3/12(日)にFactory Art Museum Toyama において「選挙とは何か?」をテーマとして哲学カフェを開催しました。4月に統一地方選が行われて、富山県では県議選が行われます。そのタイミングで、選挙とは何かについて、富山県の県会議員である平木柳太郎さんをゲストに招いて、様々な年代の方と語り合いながら共に考える機会を設けました。

現地参加者7名、オンラインでの参加者3名でした。リピート参加の方と新規参加の方がそれぞれいらっしゃいました。特別に18歳前後の方をオンラインなどで無料で招待していましたが、一人オンラインでのご参加となり寂しい一面もありましたが、現地は議論で大いに盛り上がりました。平木さんはこの3月で議員を勇退されることとなり、しがらみなくお話しいただいた点も大きいと思います。

第1部では、平木さんとファシリテーターの野末の両者の自己紹介を行った後、選挙人口のデータをお示しして一般的なイメージほどは若者人口の選挙人口が少なくないことをアイスブレイクの話題として提供しました。その後、平木さんから富山県議選の内容についてガイダンスをしていただき、野末からもシルバーデモクラシーや未来倫理という概念を紹介しました。抽象的・具体的なトピックについて議論しました。

第2部では、平木さんご自身が経験された政治の内容についてプレゼンしていただき、民主主義とは何かについて議論しました。議員経験者も参加しておられ、民主主義とは根性であるという生々しい発言もあったり、未来倫理についての遠大な時間軸を射程に入れた議論もあったり、様々な方向に行ったり来たりしながら議論がなされました。

第3部では、平木さんが今後挑戦しようと試みている活動の一端も垣間見えて、民意を行政に反映する仕組みの模索はまだまだ成される余地があることも参加者の皆さんにも共有されたように思います。既存の選挙制度は硬直化して民意が反映されづらい傾向が進行していますが、各人が各所で民意を反映する試みを模索する必要性を実感しました。

シルバーデモクラシーといった時間軸の短い話で民意の分断が図られたりもしますが、未来倫理のような長い時間軸で私たちが抱える課題を整理しつつ、実際の行動において民意を粘り強く局所的であっても実現する必要性を、平木さんの実践から学ぶことができました。

平木柳太郎さんとファシリテーター野末

次回は、壮大な時間軸をめぐる書籍『人新世の人間の条件』をもとに議論をしていきます。

20230115哲学カフェのホワイトボード

【活動報告】第54回哲学カフェ×ミュージアム「生活世界とは何か?」2023/1/15

1/15(日)にFactory Art Museum Toyama において「生活世界とは何か?」をテーマとして哲学カフェを開催しました。前回の「話せば分かるのか?」は、ハーバーマスのコミュニケーション的行為をめぐって議論をして、その中のシステムと生活世界の相克関係が参加者の皆さんの興味を強く引いていました。そこで、そのベースにある「生活世界」そのものについて議論する必要があると考えて今回のテーマ設定となりました。

現地参加者8名、オンラインでの参加者2名でした。リピート参加の方と新規参加の方がそれぞれいらっしゃいました。現地参加がコロナ前の水準に回復しつつあり、とても活気のある会となりました。

第1部では、ファシリテータの野末から基礎知識の共有を行いました。

フッサールが提案した「生活世界」の概念が、彼の創始した現象学に由来することをまずは紹介しました。そして、それがハイデガーの世界内存在、メルロ・ポンティの身体論、そして近年流行しているケア論にも大きな影響を与えていることをご紹介しました。

20230115哲学カフェのホワイトボード

システムが生活世界を植民地化しているという図式のおさらいもしましたが、やはり現今のITが指数関数的な進化を遂げていて、人びとの素朴な感情を置き去りにしている状況を説明する上で分かりやすいのか、前回以上に強い関心を持たれていました。

これに対して、第2部と第3部では、生活世界からシステムへ働きかけるコミュニケーション的行為の可能性について前回から引き続いて議論が進みました。SNSが私たちの人間関係を蝕む時代において、私たちがIT企業に疑念を突き付けることは意味があるとは思うが、市民が能動的にシステムに深く関与する主体性を維持することはやはり困難ではないかという疑問が出ました。それについては、「弱いつながりの強さ」の理論があることを紹介しました。つまり、SNSで弱くつながり合う中から、強いつながりに至るきっかけを模索することは可能ではないかという見解を共有することができました。

こちらの意図とは異なり、生活世界や現象学の話にはつながりませんでしたが、前回からの継続した議論を深堀で来たという点では意義があったと思います。

次回は、システムの中枢を占める技術が私たちに及ぼす影響をもう少し考えてみます。具体的には、ユク・ホイさんの『中国における技術への問い』をもとに、以前からこの哲学カフェで考えられていたテーマについて考えていきます。