【活動報告】第53回哲学カフェ×ミュージアム「話せば分かるのか?」2022/12/18

12/18(日)にFactory Art Museum Toyama において「話せば分かるのか?」をテーマとして哲学カフェを開催しました。前回の「人類は賢くなれるのか?」は、啓蒙可能性について議論をしていましたが、そもそも啓蒙する以前に意志の疎通が困難なのでコミュニケーションが可能なのかという問いが必要ではないかということで今回のテーマ設定となりました。

現地参加者5名、オンラインでの参加者4名でした。リピート参加の方と新規参加の方がそれぞれいらっしゃいました。

第1部では、ファシリテータの野末から基礎知識の共有を行いました。

ドイツの哲学者ハーバーマスのコミュニケーション的行為をその哲学的背景から説明をしました。まずはハーバーマスが、以前にも哲学カフェでご紹介したアドルノとホルクハイマーの批判的継承から研究をスタートした背景を説明しました。「啓蒙の弁証法」による問題告発は有意義ではありましたが、具体的に問題の構造を腑分けして解析する必要があるという目的意識で、「生活世界の植民地化」という概念を提案しました。

生活世界とは、先行する哲学者であるフッサールが提起した概念ですが、それを受け継いで社会的絆や素朴な感情の共有といった共同体のことを指しています。それがシステムによって植民地化されてしまうことを防ぐために、システムと生活世界が有機的に結びつけて、双方向的なやりとりが必要となります。そのために必要なのがコミュニケーション的行為であるわけです。

これに対して、第2部と第3部では、抽象度が高くて分かりにくいという声が上がり、具体的な次元にブレイクダウンして対話を進めていきました。その中でコミュニケーション的行為よりも、「生活世界」という概念に関心が移っていきました。話が通じない人に自分の考えを伝えられないという悩みはとても小さな問題で、それよりも社会的絆や素朴な共感の基盤である生活世界がシステムに植民地化されることによってやせ細っていることの方が大きな問題であることが明白になってきました。

ハーバーマスによれば、システムと生活世界の間の調整がコミュニケーション的行為であるということになるのですが、その一方で、私たちは生活世界そのものについての哲学的背景についても理解を深めたいということになりました。次回は「生活世界とは何か?」と題して、フッサールが提起した生活世界について理解を深めるとともに、その基盤となった彼が創始した現象学そのものについても簡単に案内します。現象学は「事象そのものへ!」をモットーに私たちの原初的な意識へと遡行する知的営みで、社会学や精神医学にも大きな影響を与えています。そのような深い視座のもとに、疎外させられている生活世界への理解を深める対話を行います。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です