【活動報告】第69回哲学カフェ×ミュージアム「ケアの倫理とベーシックインカム」2024/4/21

4/21(日)にFactory Art Museum Toyama において「ケアの倫理と」をテーマとして哲学カフェを開催しました。

現地4名、オンライン参加4名での開催となりました。

前回は岡野八代『ケアの倫理』(岩波新書)に則って「ケアの倫理」の考え方を紹介しました。ケアの倫理は「主体性」という近代文明の基礎を”Who cares?”と問いかけることで根本的に揺るがす可能性はあるものの、その社会的実装を具体的に考えてみたいとして、そして近代文明の転換を図る一助として、ベーシックインカムを補助線に考えてみることとしました。

導入の最初に、そもそも奈良時代の日本において均田制というベーシックキャピタル(基礎資本)という制度が運用されていたことを説明して、それほど人類に無縁の制度ではないことを投げかけました。アメリカ合衆国独立を主導した思想家であるトマス・ペインももまた、ベーシックキャピタルのような制度の導入を訴えていて、ベーシックインカムを歴史上初めて訴えたとされることが多いです。

ベーシックインカム(BI)の定義として、一定金額が定期的に全ての個人に現金が支給されるというのが近年の主流となっていますが、その定義でのBIは1960年代の後半のアメリカ合衆国において、ケア労働と生産労働の両方を担っているシングルマザーがBIを求める運動を起こして、それがキング牧師を突き動かしたという歴史があります。そもそもの起こりとしてケア労働とBIの結びつきは深く、ケア労働とマッチするのではという提案を行いました。

そもそも、アメリカ合衆国ではニクソン米大統領の時期に負の所得税という形でBIを導入しようとした経緯があったことを紹介しました。

負の所得税(フノショトクゼイ)とは? 意味や使い方 – コトバンク

米アラスカ州でアラスカ永久基金というファンドが資源をもとに運用した結果得られた利益を州民に等しく分配するという部分的BIの仕組みが1970年代以来ずっと継続されており、また、かつてはカナダのドーフィンという小さな自治体で数年間BIの実験がなされたことがあり、それで仕事を辞めた人はおらず、辞めた人も学業に専念したり、専業主婦になって子育てに専念したりしたというポジティブな結果が得られたという事実も共有しました。

Alaska Department of Revenue – Permanent Fund Dividend

Alaska Permanent Fund – WikipediaAlaska Permanent Fund – Wikipedia

オンタリオ州ベーシック・インカムの実験: MINCOME の影響

このような事実を紹介してもなお、BIを導入すると人は働かなくなるのではないかという誰もが最初に抱く根強い疑問が起こりました。一斉に人が働かなくなるのは非現実的な想定であるとはしても、一定数は働かなくなって社会が機能しなくなる可能性があるのではないかという疑問です。これに対しては、そもそもケア労働が極めて低賃金に抑えられている点を踏まえると、ケア労働者に対する生活の底上げとして機能はするけれども、例えば月額5万円程度の上乗せで仕事を辞めるということは非現実的な想定であろうと回答しました。

確かに、いきなり純粋な定義のBIを導入すると混乱が発生する可能性もあるので、まずは子育てや介護、ボランティア活動などケア労働に限ってBIを支給するという参加所得を導入したらどうかという提案を行いました。

それでも、ふんだんに年金が支給されている家庭に依存する孫が堕落している事例に話題が広がってしまうなど、シングルマザーがBIを求めたという精神に対する理解が到底及ばず時間切りになってしまいました。BIは移民に対して支給するのかという難問が控えていて、それに対する議論は想定していたのですが、まさか入り口でこんなに躓いてしまうとは想定外でした。

「働かざる者食うべからず」という近代文明の労働観が根強く私たちを支配していて、前回話題となったようなケア労働への転換、ましてや文明の転換というところまで私たちの精神は変容するのは厳しいのだなと痛感しました。

次回は、原初のBIの精神にアプローチするために、角度を変えてBI発祥の地であるアメリカ合衆国をテーマに迫ってみようと試みています。テーマは「アメリカニズムとは何か?~トランプ氏はなぜ支持を受けるのか~」として、米大統領選への準備も兼ねて実施いたします。

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