サンシップとやまにて、自殺をテーマに考える哲学カフェを行いました。
今回はボランティア団体の「スマイル*スマイル」様にも協力いただきました。
はじめに、哲学とは何か?
カントの定義では、哲学には次の3大テーマがあります。
① 真 ー 「わたしは何を知ることができるのだろうか」
② 善 ー 「わたしは何をすべきなのであろうか」
③ 美 ー 「わたしは何を望むのがよいのだろうか」
以前、別の場所で「善」の視点から「自殺」は善か悪か?社会にとっての損失は?
などの内容を扱いました。
今回は「真」に焦点を当てて、自殺とは何か扱いました。
死とは何か?
生きている者からの見方として、過去にもいくつかの解釈がありました。
ブッタ 「無記(わからん)」
プラトン 魂は実在する。イデア界(理想郷)
孔子 「未だ生を知らず、焉んぞ死を知らん」
あるいは、丹波哲郎氏の大霊界や臨死体験という現象もありますが、
いずれも生きている者からの見方です。
哲学は抽象的に考えるというか、普遍的なテーマを扱う以上、どうしても
個々人の体験とは相容れないような所もあり、特に自己を中心に据えて世界
を見る傾向にある現代人にはプラトンのイデア論などは想起しづらいもの
かもしれませんね。
ただ哲学の流れにも変化はあり、自己を通して真実を追求する哲学者も現れてきます。
キルケゴールやハイデガーなどの人物です。
キルケゴール 著作「死にいたる病」
現実の自己の生々しい体験からキルケゴールは人を死に至らしめる病:絶望に
アプローチしていきました。(絶望の諸形態)
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自己とは無限と有限、必然性と可能性の間で常にアンバランスになりがちなものです。
キルケゴールは絶望の諸形態を次のように分類しました。
①仕事や娯楽で気を紛らわして自己であることにすら気づかない絶望(非本来的絶望)
②自己自身であろうと欲しない絶望(自殺)
・ふられたから死にたい。こうであればよかったのに、現実はちがう。
・「帝王か、しからずんば無か」等
③自己自身であろうと欲する絶望(反抗・苦役)
・現実への憎悪からくる絶望。復讐のための自殺など
キルケゴールの解決としては、彼はまた敬虔なクリスチャンでもあり
絶対者(神)に帰依することで自己はバランスを保つと説いています。
【参考】厳しい父(キリスト教の道徳)と自分の欲望(性欲)の間で葛藤
ハイデガー 著作「存在と時間」
ハイデガーは「存在と時間」の中で死そのものの可能性について分析します。
曰く、
・交換不可能性: 自己の死は経験できない
・確実性: 誰にも訪れる
・無規定性: 人間いつ死ぬかわからない
・没交渉性: 死が迫ると孤独になる
他者との係わりが薄くなる
↓ ↑
死の切迫感、「死」は他人と共有しづらい
・追い越し不可能性 : 死は誰も追い越せない
このような死の可能性に直面したくない私達はたいてい仕事・娯楽で気を紛らわし、
忙しく生活しています。(頽落)
ハイデガーによると、ただ不安を紛らわすのではなく、まだ来ない「死」を
先回りして(先駆)深く見ることでそれを乗り越えるという先駆的決意性を
説いています。人は必ず死ぬ、一瞬を大事にという覚悟のようなものでしょうか。
・「死」を迎える覚悟(決意)をする
・「死」の可能性を何かで紛らわすのでなく、あらかじめ認識しておくことで
人間存在を深くみる
【参考】
・ハイデガーはナチスの側にいた。人は皆、関係性の中で生きている。
・ハイデガーの不倫相手ハンナ・アーレント
➡ナチス戦犯のアイヒマンの悪の凡庸さ(悪の自覚もなく大量虐殺)を訴える
哲学カフェで挙がった話題・質問など
「死にたい」という衝動は、「こうなりたいのに!」という現実と理想との
ギャップの現れとも言えます。予防のためのアプローチとして、哲学、宗教、
心理学、禅などそれぞれの見方があると言えます。
哲学は自己の状態を一歩引いて、より深いところから理解するための助けに
なりえると思います。
参加者の方々にも「死ぬとどうなる?」「なぜ自殺する人がいる」という問い
への意見を付箋に書いてもらい、講義の前後で気づきや変化などが分かる
ように進行いたしました。
ハイデガーの説く「死の可能性」については、参加者の意見とも重なるものがあり、
理解が深まったのではないかと思います。
その他の話題や質問としては以下のようなものが挙がりました。
・武士の切腹、特攻隊、自爆テロにも死にたいする哲学はあるのか?
・田辺元は「死生」という演説で、生き方ではなく死に方を語ることにより、
大学生を死地に追いやった。」
・西田幾多郎 「純粋経験」を理解したい
・仏教「己事究明」「諸法無我」
・私には死の恐怖心がないのはなぜ?
・今、哲学の先生は何を研究してるの?
・年をとったら、一人でも孤独でない境地を目指している
・宗教・哲学・心理学 のちがいは?
・交流分析:関係性からのアプローチ・宗教・哲学・心理学を生活に活かす
日本の仏教や、日本の哲学者の思想にふれる哲学カフェがあっても
面白いかもしれないと感じました。
ご参加いただいた方々、本当にありがとうございました。